魚でごちそう

■「魚でごちそう」本山 賢司(著)
この本はもう絶版なのだが、
ネット上でちょっと見かけたコンセプトに惹かれてネットストアの古本で購入した。
出かけた現地で魚介類を購入・その近所で調理して食べる、というテーマで
一回につき見開きの魚のイラストレーションと見開きの顛末記の、
計 4 ページで構成されている。
購入前に推測していた通り「図解 さかな料理指南」とのネタかぶりは多いが
同じネタでももっと深く読めると期待して買ったのでそれはいいだろう。

全部で 41 編の行状がまとめられているのだが、
「図解 焚火料理…」と「図解 さかな料理…」を既読の僕に限っては、
途中で飽きてしまった。

41 編それぞれにあまり変化がないのがまず大きい。
もっともそれは、図鑑のような体裁で作っているのだから
そういう物かもしれない。

根本的な事を言えば、(編集部の)企画内容が中途半端なのである。
読者に何を楽しんでもらうのか、があいまいなまま始めているから、
非常に散漫なつくりになってしまっているのだ。
これは本の構成にかなりの責任がある。
本山氏自身があとがきで
「生の魚をモデルに絵を書きたいというのがいちばんの目的」
と書いているが、図鑑のように背景のない切抜きで描かれる絵に、
現地で書く必要性があるだろうか。
現地に足を運ぶのなら、そこでしか描けない背景をも取り込むべきではなかったか。
もしくは、料理の方をイラストで見せてもらうべきだったのではないだろうか。
また、行く場所は決まっているのに入手する魚は現地で見繕い、というのも
41 編ともなるとズボラな感じがしてしまう。
その魚で作る料理が、なぜその料理なのかという理由に乏しいのもまた、
エンタテインメント性に欠けるのだ。
素人の投稿する旅行記ではないのだから、
説得力のある流れであってほしいものである。

この本のタイトルは「魚でごちそう」であるが、
「ごちそう」という語感から期待する、舌なめずりしたくなるような描写が
この本の中にはちょっと少な過ぎる。
美しいイラストはあくまで「素材」である。
文章は多少想像力を刺激するものの、
本人達の喜び様の描写の方が強いので、蚊帳の外感がある。
それらをフォローするべき調理写真であるが、
ライブ感に固執したのか、美味そうに撮ろうとはされておらず、
したがって一冊を通して
「あたかも読者も一緒に美味しい思いをしたような」感じがあまりしない。
「図解 さかな料理指南」ではご相伴にあずかったような幸福感を感じたのに
もっと手間をかけた企画であろう「魚でごちそう」がこれでは、非常に残念である。
美しい本山氏のイラストが、もったいない。
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