不味い!

■「不味い!」小泉 武夫(著)
最初は、結構読めると思った。
大胆で力強い文章には説得力があり、
「あぁ、そりゃ不味いだろうね」
「あぁ、そういう不味いものってあるよね」、と。
しかし途中から、ある事に気付いて楽しめなくなってきた。
実は氏は、その異名に反して
味覚がとても虚弱なんじゃないだろうかという事である。
確かにゲテモノは食べるし、発酵食品には強かろう。
けれどもそれは味覚レンジがそちらへ少しシフトしているだけの事で、
レンジ幅自体は普通の人とさして変わらないような気がするのだ。
例えば焼肉屋で、氏は食べる気にならない焼肉を、学生にやっている。
氏が食べられなかった物を、学生は食べているのだ。
例えばそれが実は汚染されていただとか、
そういう知識の差で食べる食べないが発生していたならともかく
獣臭がするので食べないとあっては
とてもじゃないがジュラルミンの胃袋とは言えまい。
ともかく氏には、食えない物が多すぎるのだ。
感覚が鋭敏なのはいい事だけれど、美味くない事と食えない事は別であり、
レベルが低い物は食べられないというのは誇れる事じゃないと思う。
そんなわけで、氏と物差しの尺度が違っているかも、と感じ始めると
この本は結構陳腐になってしまうのだ。
で、そういう見方になってくると、
氏がなんでわざわざ嫌な思いをするために
安っぽい食材を買い込むのか、という事に疑問符が付き始める。
「あぁ、ネタって事か」と思ってしまうともう一気に醒めてしまう。
氏はシュール・ストレミングホンオ・フェも不味いと言っているが、
喜んで食っている現地人はいるわけでしょ。
チャレンジしただけで「発酵仮面」ってのはないんじゃないかなぁ。